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私たちが誇れるもの

私たちが誇れるもの

小西 正昭

 世界中で一番誇れる制度はと問われれば、私は真っ先に日本の医療保険制度をあげます。日本では、いつでも、どこでも、誰もが、効率よく医療を受けられるからです。しかも医療の内容は公平で平等です。最新の世界保健機構の報告では日本は健康寿命が1位、平等性が33位、健康達成度の総合評価は1位です。そして医療費のGDP比は、OECDのなかで18位と極めて低い位置にあり、少ない医療費で大きな効果を達成しています。私たちが作り上げてきたこの優れた医療保険制度は是非とも守り抜かねばならないと思います。

 いま、日本経済を活性化させるための一つの方策として、経済財政諮問会議などから医療に市場原理を導入せよという声があがっています。メンバーが経済学者や財界人などに偏っており、議論は財政論のみに終始しています。社会保障としての公的医療保険制度をどのようにしていくのか、その将来像が全く示されていません。医療に携わるものは常に医療を受ける側の気持ちに立って仕事をしています。その結果少なからず医療機関の間に競争原理が働くものです。やみくもに市場原理で競争が行われるなら利益追求のあまり、国民の健康、生命は置き去りにされることでしょう。医療の本質を考えれば、競争原理は医療保険制度には全く馴染まないものといえます。

 また、公的医療保険の守備範囲を見直そうという議論もされています。自己負担の部分を大きくして公費の投入を抑え、国が支出する医療費の抑制を図ろうとするものです。公的医療保険外の部分が大きくなると民間医療保険の同時加入も考えざるをえませんから、医療方面のシェア拡大を目指す保険会社にとっては願ってもない動きといえるでしょう。

 経済財政諮問会議、総合規制改革会議や規制改革・民間開放推進会議のメンバー達が目指しているアメリカの医療制度とはどんなものかを簡単に説明しましょう。

 公的医療制度は 高齢者の「メディケイド」と貧困層の「メディケア」という2つの医療扶助制度が存在します。国は一定の財政手当はしますが、運営は民間保険会社に丸投げしています。保険会社は公定費用の範囲内で運営し利潤を出さなければなりません。従ってコストを切り詰め、会社が不利益となる検査、治療が行われていないかなど、常にチェックされます。薬代はメディケイドは全額自己負担しなければなりませんから高齢の受診者にとっては重い負担となります。

 そのほかの人たちは、公的医療保険の対象外となり民間医療保険に加入することになります。

 しかし経済的な理由で保険料が支払えず、約3,000万人の無保険者が存在していると云われています。貧困層が医療から締め出されているという深刻な社会問題を生んでいます。よしんば民間保険に加入していたとしてもいろいろな制限があります。病気になったとき日本ではどこの医療機関にでも受診できますが、アメリカの民間医療保険は登録されている医療機関にしか受診できません。もし検査が必要で高次病院を紹介されたとしても、当該保険会社と契約している病院しか行くことができず、悲惨な例では重病患者が100km以上も離れたところに行かされたという話もあります。日本でも医療保険が民間中心となれば、アメリカと同様理想的な医療を受けられるのは富裕層だけで、高度先進医療の恩恵に預かるのは限られた人たちのみということになってしまうでしょう。

 一般に社会保障制度とは、単に経済的な問題ではなく、根本的には国のあり方、政治のあり方の理念があり、そして最終的には国民の選択に委ねられるべきものです。小手先の対応だけで解決のつく問題ではありません。医療保険制度において営利企業の参入を図ろうとする動きは、国民皆保険制度を形骸化に導くと危惧します。医療への市場経済原理の導入の議論にあたっては、医療の本質の認識と、国民皆保険制度の確保といった視点が求められます。財政論を振りかざす人たちや営利目的で医療に参入しようとする人たちの議論がまかり通る状況を看過しては、後世に禍根を残す結果となるでしょう。私ども医療に携わるものも含め国民全体が、21世紀をどのような社会にしていくか指針をしっかり定め、医療保険制度のあり方ひいては社会保障制度のあり方を論じることが重要と思います。

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